冷たい街の温もり

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   4 七月のまばゆい陽射しが、清風にそよぐ緑葉を鮮やかに染め、路上に涼しげな影を描き出していた。そんな初夏の街並みを、ひな乃は嬉しそうに眺めている。空色のワンピースから覗く白い肌が、透き通るようだった。 キャンパスの周辺を逍遥しているところだった。これから彼女はサークル活動に向かい、僕はそれを見送ったあとでアルバイトへおもむくことになっている。 「ねえ、わたしさ、沖縄に行きたい」 「沖縄かぁ。ずいぶん金かかるんだろうな」 「もう、そんなのはどうにでもなるよ。ね、八月に行こうよ」 「八月? ずいぶんと急だなあ」 「この景色を見てたらさ、なんだかいきなり行きたくなっちゃったの」 「うーん、そうだな、じゃあちょっと調べてみるか」 僕がそう云うと、彼女は喜びの声を上げながら首をくすめて笑った。 ひな乃と交際を始めてから、間もなく三箇月が過ぎようとしている。駅前での出逢いを果たして以来、幾度かの逢瀬を重ね、そのうちにだんだんと彼女も元来の性分を晒すようになり、そうして四月の半ばに僕のほうから交際を申し込んだのである。 彼女の明るくあどけない笑顔の裏に潜んでいる脆さを、僕は知っていた。だからこそ僕が彼女を見守らねばならないと感じていた。 大学の正門が見えてきたところで、ひな乃は足を止める。 「それじゃあ、行ってくるね。また明日!」 彼女は漫画に関心があるらしく、サークルもそれを創作する団体に属していた。実力の程はいまひとつ判らないが、近頃コンテストで入賞したと云っていたから、よほど優れているのかもしれない。 来た道を引き返し、アルバイトへと向かう。本来のシフトは翌日に入っていたのだが、ひな乃がどうしても明日は空けておいてほしいと云うから、無理を云って変更してもらったのである。 なぜそれほどまでに彼女が明日の約束にこだわるのかは、判らなかった。      5 深夜に驟雨でもあったらしく、早朝の路地にはたくさんの水溜まりが見られた。しかしそれも払暁には止んだと見えて、街には夏の陽が燦々と降り注いでいる。 僕は男が先に着していなければならないという旧来の発想を信条としていたから、十分前に到着する心算で横浜駅へ向かった。
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