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「ごく普通の父親として接してきました。もちろん暴力を振るうようなことはありませんが、といって常に甘えさせてやるようなこともありませんでした。ああ、ただそれなりにいろいろなものをプレゼントしたように思います」
「プレゼント、ですか」
「ええ、あれは唯一の娘なんですが、やっぱり喜んでほしいという気持ちがあったのかな、いまではすっかりそんなものも買いませんが、かつては結構な頻度で与えていました」
「どんなものを選んだんですか」
僕がそう促すと、浜井さんはこれまで娘に与えてきたものを次々と挙げていった。それは食品から衣類まで多岐に亘っていたが、いずれも僕にはあまり馴染みのないものだった。
そこへ先刻のウェイトレスがミネストローネを携えてやって来た。器の内側は穏やかな赤に染められ、微かな湯気を立ち上らせている。
「浜井さん、たいへん失礼なんですが、僕としてはそのプレゼントに原因があるのではないかと思うんです」
「どういうことですか」
「どうもプレゼントの内容を聞いていると、娘さんの好みには合わないんじゃないかなって思えるんです。その、少し価値観に年代的な違いがあるのかもしれません。それで次々と与えられるプレゼントを、鬱陶しく感じていたのかもしれない」
彼は驚愕と猜疑の入り混じったような面持ちで、しばらく黙してしまった。
「しかしそれは、そこを端緒としてやり直していけば好いということです。娘さんの好みをしっかりと把握して、今度はそれに見合ったプレゼントをあげてみてください」
それ以上の説明を添える必要はないと感じて、僕はカップを口許へ運んだ。彼の失意の滲んだ表情はだんだんと緩んでゆき、やがて得心したように微笑を浮かべた。
「そうですね、もう少しあの娘のことをちゃんと知ろうと思います」
それから浜井さんはここが喫煙席であることを確認して、煙草を取り出した。ライターの燈が灯る。彼はひどく爽やかな相好で、ゆっくりと煙を吐き出した。
3
翌日は春めいた晴天で、澄み渡る空に鳥のさえずりが心地よく響いていた。いつまでも春宵のまどろむような名残が抜けきらず、午後の二時ごろにようやく眼を醒ました。
別段予定もないからこのまま蒲団のなかでひねもす大人しくしていても好いのだけれど、せっかく気候が優れているから出かけることにした。足は自然と横浜駅のほうへ向かう。
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