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学校が終わるとすぐに、清音、瑠璃子、正人の3人は病院へ向かった。
星和台病院前でバスを降り、正人を先頭にして病院の入り口へ向かって歩いていると、すぐそこの救急の入り口前にサイレンを鳴らした救急車が入って来て止まった。後ろの扉から台車が降ろされた。が、台車は病院の中へ運ばれず、その場で救急のスタッフが心臓マッサージを始めた。付き添っていた女性が激しく泣きだし、「すずちゃん、がんばって!」と叫びだした。二十代かせいぜい三十代、家から慌てて飛び出してきたんだろう、つっかけにエプロン姿だ。
今、この女性の小さな娘が心肺蘇生を受けている、今、生きるか死ぬかの瀬戸際にいる。それは誰にでも簡単に想像がついた。
その様子を見ていた瑠璃子が立ち止まり、自分の左手を見て、また視線を救急車の方へ戻した。
あたしが、石に願えば、あの人の子、助かるかも……。
清音は瑠璃子が何を考えているのか察した。瑠璃子の腕を握って厳しい顔つきで首を横に振った。「るぅ、ダメ」
清音の声に、正人は振り向いて2人を見た。
瑠璃子は清音を見た。清音も瑠璃子を見つめ返した。
「そんなの願ったら、どんな代償払うことになるか…」瑠璃子の腕を握っている手に力が込もった。
人の命を救った代償……「あたしの命が、代償?」瑠璃子は心肺蘇生が続けられ、そばで女性が泣き叫んでいる光景に目を戻し、じっと見つめた。
「そう思う。だからダメ。かわいそうだけど……」清音も救急車の方を気の毒そうに見た。
瑠璃子は目を伏せ、小さくうなずいた。
きっと、さーやの言う通りだ。
「行こ」清音は瑠璃子の腕をひっぱり、病院の入り口の方へ促した。
正人は、こいつら何の話をしてるんだろう?と言いたげな顔つきをしていたが、何も言わずに、歩きだした。
3人が病室へ入ると、本間先生はベットの上で半分体を起こし、お菓子を食べながらテレビを見ていた。先生は3人に気づいて驚き、そして喜んだ。入院しているとは思えないほど元気そうに見え、瑠璃子は目に見えてホッとした顔をした。
「お前らが見舞いに来てくれるなんて、先生、感激だ!」
先生は3人分の椅子をベットのまわりに用意してくれ、お菓子とジュースを出してくれた。
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