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「わ・・・」
今度は私が驚く番だった。
しかし、バランスを崩した私の体は倒れることなく、誰かさんの腕の中に収まっている。
まぁ、倒れそうになったそもそもの原因は彼なのだから、当然と言えば当然だが。
「ちょっと!」
文句を言おうと振り向くと、いつになく優しげな目でこちらを見ている海と目が合う。
・・・コイツ、何を考えてるの?
訝しげな視線を向けるが、それにも動じずに海は私の髪を一房掴んで口付けた。
「シャンプー、変えたんですね。いい香りです」
はぁ?!
意味の分からない会話に、心の中では怒り爆発中だ。だが、開いたドアの先でこちらを睨んでいる女性を見れば、大体の意図は読める。
「気に入った?」
高くつくわよ
内心そう言って笑いかけてやると、彼の右腕が私の頭を抱え込んだ。
次は噛み付いてやるからね
昨日と同じパターンを疑い、口元だけの笑みを送る。すると彼は、そんな私の心中を察しているのかいないのか、私の額を自分の額に優しく添えて笑った。
「ええ。とても」
その柔らかな笑みに、自分の口元も自然と綻ぶ。
次の瞬間、勢いよく音を立てて、ドアが閉まった。
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