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「これ、貸しにしておくわね」
「ありがとうございます。助かりました」
彼女の足音が完全に消えて私が呟くと、海はそう言って後頭部に添えていた私の手を離す。私がその隙を逃さず体勢を戻すと、彼はあからさまに不満そうな溜め息を吐いた。
「そんなあからさまに逃げなくても」
「そう思うんなら、腕をどけてくれない?」
体勢を変え、彼の腕の中から抜け出そうと抗うが、彼の腕はびくともしない。
それどころか、彼は楽しそうに私の髪に顔を埋める。
「だから・・・」
「うーん」
呆れたように横目で睨むが、そんなものはどこ吹く風だ。
「やっぱり、シャンプー変えました?」
「・・・」
この男は・・・
「変えてないわよ。昨日は髪パックしたの」
観念して、話を聞かない男に言い聞かせる。
溜め息を吐くと、どこからか押し殺したような笑い声が聞こえてきた。
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