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「ずいぶん節操がないのね」
「海外って好き?」
「私とウミウシは似ているの」
「もうすぐお別れだね」
「さよなら信二さん」
帰りの電車、僕の頭の中を彼女の言葉が巡っていた。
「海......僕はどこで間違ったんだ?」
家に早足で帰り、あの日のコートを引きずり出す。くまなく探すと、確かに、ポケットから入れた覚えのない紙切れが出てきた。
(......あの時か.....)
それは彼女が手を入れていたあのポケットから見つかった。
【お元気ですか?多分、信二さんがこの手紙を見る頃、私はそこにいないと思います。そして、この事は、信二さんと出会う前から決めていた事でもありました。
私はあの時、ある研究団体からスカウトを受けていました。その環境は私にとって理想的でしたが、10年、海外を転々とするという条件は、院生の女性にとって婚期を捨てる事と言っても言い過ぎではない事です。信二さんと過ごした数ヶ月は、私にとって最初で最後の恋の季節でしたが、私はそこから旅立つことを決めてしまいました。
今まで本当にありがとう。そして、ごめんなさい。私にとって貴方はこれからもずっと一番大好きな人です】
文章自体は淡々としたものだった。でも、震える文字に大小様々の水玉、その紙には彼女の心が嫌というほど現れていた。
「こんなの......ずるいじゃないか......僕だって、君がいまでも一番好きだよ」
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