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携帯のアドレスを交換して帰ったその日だけで、僕は随分と彼女のことを知れた。メールのやり取りから分かった事ばかりだけど、彼女が大学の院生である事、その研究のテーマがウミウシで、ウミウシの事を研究したくて院生になったというちょっと変わった女性である事も分かった。でも、メールの中に脈絡も見つからずに記された
「私とウミウシは似てるの」
という一言だけは理解する事が出来ず、深く踏み込むことはしなかった。
本当に僕は節操のないものだ。次の仕事の休みから僕の時間は全て彼女と共有された。どこに行きたいかと聞くと必ず水族館と答える彼女を無理やり色々な場所へと連れまわす日々が続いた。
遊園地、喫茶店、カラオケ、ダーツバー、カラオケ、遊園地、そして、あの水族館で僕は彼女に改めて交際を申し込んだ。
「......私、気まぐれだけどいいの?」
そんな事はもう充分に知っていた。実際、彼女はその独特の感性で何かに執着すると何時間も動かなくなるのを何度も見ている。僕は内心、今更そんなことを気にする彼女を可笑しく、そして可愛いと思うと同時に、その言葉に含まれた肯定のニュアンスを聞き分け、天にも昇る心地でいた。
その日から、僕と彼女のやり取りはメールから電話に変わった。なんの予定もなく沢山の電話をした。電話越しに彼女は大学院の資料を作ったり、料理をして、僕もまた、部屋の片付けや資格の勉強なんかをしていた。そして、彼女、海はやはり不思議な人でよく鼻歌が混じる通話を聞いているとなんだか僕まで嬉しくなり、いつの間にか彼女の口ずさむメロディーを一緒に歌えるようになった時からは、より、彼女との距離が近づいて感じた。
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