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微妙なニュアンスの言葉だが、年の功なのか、嫌味な印象は受けなかった。
「あー、残念です。僕が学生、そうですねぇ、同じゼミの水野さんだったりすれば、君に彼女の話もできるかもしれないのになぁ」
初老の男性はそう言うと僕に軽くウィンクをした。
「あ......あ、ありがとうございます!!」
少し間をおいて気づいた僕は慌てて職員室を飛び出した。
「......大丈夫なんです?教諭、あれも個人情報では?」
「ふふ......まずい独り言を聞かれてしまいましたかね。しかし、若さと言うのは良いものだ。私もあれくらい妻を大切にしておけば、こんなに後悔はしなかったのかもしれないね......」
「教諭......」
本当に僕という人間は大概で、しかも節操がないのだろう。ただでさえ人目に着く女子大の中を走り抜け、何人もの生徒に聞いて、とうとう水野という女性を見つけた。
「その様子だと、まだ手紙は読んでないんですね......彼女と別れた日のコートの中、探してみてください」
「なっ!ちょっと待ってくれもう少し詳しく......」
僕が要件だけを口にして去ろうとする水野さんを呼び止めようとすると、彼女は剣幕な表情でそれを拒んだ。
「寄らないでください!!貴方が海の事、もっと早く気にかけてれば......っ!!」
今度は......立ち去る彼女を呼び止めてはいけない様に思えた。
「僕がもっと早く気にかけてれば?」
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