第一章

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「渉くんは中学に上がってからテストも補習を受けないギリギリの点数でした。なのに、授業中に先生に当てられたりしてもさらっと答えちゃったりするもんだから、実は頭が良いってもっぱらの噂で――。要領が良いんですよね。私なんかと違って」  昔から渡瀬くんと話をする機会はほとんどなかったけど、彼の情報は少なくない。こんな感じである意味悪目立ちをしていた渡瀬くんだから、周りからある事ない事噂されていた記憶もある。 「歩美ちゃんだって要領が悪いって事は無いだろうに。推薦入試で大学に入ったんだろ? 要領が良かった証拠じゃないか」 「そそ、そんな事無いです! 推薦面接の時も面接官の教授に逆に質問ばっかりして一時間くらいその場で講義してもらったりして……本当になんで受かったか分からないくらいです」 「理学部には気になったら直ぐに質問したくなる好奇心ってのが大切だったんだろう。良い事だよ。歩美ちゃんの魅力だ」 「違います! 違いますから!」  法子さんがあんまりにも私の事を褒めるものだから、否定するために目の前で振っていた両手が痛くなってきた。私が騒がしく軽いパニックを起こしていると、ちょうどゲームが終わったのか渡瀬くんが顔を上げた。 「ふー」  ずっと息をするのも忘れていたとでも言いそうなほど大きく息を吐く渡瀬くん。丸まっていた背中もぐーっと伸ばす。姿勢を良くすると意外と身長が高いのでドキッとさせられた。お姉さんの法子さんも百七十センチ近い長身だけど、渡瀬くんはそれより更に高い。調子が良くて百五十センチの私にとっては二人共見上げなければいけないほどだ。  私たちの会話に一言しか言葉を発さないほどに没頭していたゲーム。それに、知らないゲーム機。スマートフォンアプリのゲームくらいしかしない私でも少し気になってしまう。好奇心に任せて何でもすぐに聞いてしまうのは私の悪い癖なのは分かっているけど、どうしても聞きたくなってしまう。 「な、何のゲームやってたの?」
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