第一章

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「楽しいからだよ。楽しいから、ついつい寄り道したくなるもんなんだ」  歪な三者面談が始まって以来、初めて渡瀬くんが笑顔を見せる。ああ、そんなキラキラした笑顔もするんだ――。 「そんなどうでもいい事は置いておいて、歩美ちゃんの相談というのは相続関係で間違いないかな?」  法子さんは、相続関係の法律や事務手続きの案内を分かりやすくまとめた冊子を机の上に置いて話を切り出した。差し出された冊子にはイラストもついており、大人から子供まで説明できるように作られている。手に取って見ると、これは渡瀬税理士事務所オリジナルの冊子で印刷年次も二〇一六年となっているあたり、少し法律が変わったりしても小まめに作り直している事が伺えた。さすが、市内でも有名な税理士事務所。 「はい。そうです。葬儀屋さんに、遺品整理や手続きは知り合いの税理士さんに相談されたほうがいいって言われて」 「ああ、よくある話だ。葬儀屋はもちろん、警察の人だって直ぐに税理士さんに相談をって言うからね。困ったもんだ。まあ、おかげでこっちは商売になるんだが……。債務整理もある事だし、歩美ちゃんの家でご両親も揃ってお話しした方がいいだろう。しかしまあ、一応先に二点だけ聞かせてもらおうかな?」 「なんでしょう?」  答えられる質問なら良いけど……そう思いながら質問を待つ。
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