第二章

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 署名され実印もしっかりと押された綺麗な遺言書。有名な書道家が書いたようなその遺言書を見て法子さんは感嘆の声を漏らした。 「おばあさまは書にも通じていたようだね。半紙もそのへんで買えるようなものではない。手漉き半紙……それにこれはきめ細かい薄手のものだ。本来この種類の紙は滲みが出にくい為に細やかな筆が必要とされる『かな用』に使われるものだが、今回は薄墨を使っている点も考えると自分の死を念頭に入れた作品の一つとする為に選んだ……という事も考えられるな。まあつまり、これだけでも価値がある物という事だよ」 「そ……そうなんですか……詳しいんですね。私はよく分からずに単なる遺言書だと思ってました。そう言って貰えると、死んだおばあちゃんも喜ぶんじゃないかと思います。小説を書いたり絵を描いたりする人でしたから」  絵を描くという事に関しては知人の展示会にいくつか作品を出させてもらった事があると言っていた。そう思うと遺言書にも芸術性を求めていたという事も頷ける。 「ところで、その……問題はこの一と二なんですが……」 「心当たりが無い――といったところか」 「そう! そうなんです! 一についてはもしかしたら私が小さい頃に何か言っていたのかもしれませんけど、十億なんて大金……どこを探しても見つからなくて……」  流石税理士を目指す大学院生――私が全て説明するまでもなく話を理解してくれる。要領の悪い私には到底できそうにない。 「そうかそうか」  法子さんは考え込むように顎に手を当てて目を瞑る。さながら名探偵だ。元々静かな事務所――しかし、法子さんが考え込んだ瞬間に雑音すらも消え去ったかのように空気がピンと張り詰めた。聴こえてくる音は、時計の針の音だけ……いや。  時計の針と渡瀬くんが操作するゲームの音だけ。 「分かった!」
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