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法子さんは、元々大きな眼を更にパッと見開いてそう言った。
「え、十億円の在り処がですか?」
嘘っ? これだけで? 半紙をひっくり返したりして確認しても何もヒントになりそうなものは見つからない。一方、分かったと言った法子さんはニヤニヤと口元を緩ませているだけ。さながら、クイズ番組で答えが分かっているのに早押しで答える事ができずに二番手で待っているタレントのように――。
「なあに。簡単な事だよ」
「か、簡単――ですか?」
うんうんと頷いた法子さんは、力強く渡瀬くんの肩を叩く。渡瀬くんになにかあるのだろうか? すると、事もあろうに渡瀬くんはゲームの操作をミスしたのか、不満な声を上げる。
「……バグって消えた」
セーブデータが消えたようだ――。二十年も前のレトロゲーム――それを当時のハードで遊んでいるのだから少しの衝撃でデータが消えても仕方がないのかもしれない。
「こいつが今から歩美ちゃんとおばあさまの家に向かって、その十億とやらと歩美ちゃんに残した時計を見つける。その間に私は歩美ちゃんのご両親のところに向かって事務手続きのお手伝いと相続に関するあれこれを説明する。歩美ちゃんの話を聞く限りだと、その十億以外は大して難しい相続問題も無さそうだし、簡単だよ」
「え?」
「は?」
私と渡瀬くんは口を揃えて疑問の一文字を口に出す。呆気に取れて二の句が告げないどころか、二文字目すら言葉に出てない。つまりこういう事だろうか――大した難しい問題は渉が解決するから私は簡単な営業をする――と。
渡瀬くんは画面の消えたゲームを机の上に置いて法子さんの顔を真っ直ぐに見る。真っ直ぐに見るとは言え、普段からゲームばかりしているせいなのか、高校時代には既に鋭かった目付きが一層悪くなっているようで……。知らない人が見たら、ガラの悪い青年が折り目正しいスーツの女性を睨みつけているように見えるかもしれない。
姉弟でそんな睨み合いをしていると、こっちの心臓にも悪い……。
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