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カーテンは閉め切られ、ほの暗い雰囲気で電気配線だらけ――。良く言えば最先端、悪く言えば――。
「こんなニートみたいな生活で、よくもまあ渡瀬家大黒柱の父さんと同じくらい稼いでるもんだよ」
「そこまでは稼いでない。最低限度を最速で――。俺は必要な分だけを手早く稼いでるだけだよ。税理士の父さんと同じだけ稼いでるはずないじゃないか」
渡瀬姉弟の父は税理士事務所を開き現役で働く税理士。母親のいない姉弟二人を男手一つで育て上げた英俊豪傑。渡瀬渉は姉にそんな父と同等の稼ぎとまで言わしめるほどに稼ぐ若手実業家といったところだろうか。
「今もちょうど仕事をしてたし……。リスナー待ってるんだけど?」
渉は動画配信やアフィリエイト――広告収入等で月に驚く程の額を得ていた。風呂にも入らず無精ひげ……そんな見た目からも分かる通り、渉は誰と顔を合わせるわけでもなく一人で部屋に篭って仕事をしている。
「下矢田歩美ちゃんって覚えてるか? 渉が幼稚園から高校まで一緒だった女の子」
「突然話を進めないでくれよ。まだやるとも何とも言ってないんだから」
話を聞いてしまえば協力すると言っていると同義だと考えているのだろうか――。渉は自分の言葉を無視して話を進めようとする法子に釘を刺すように言葉で止めた。
「やるやらないとは関係のない話さ。姉弟での他愛ない会話だよ。で、覚えてるのか覚えてないのか」
「俺の脳内メモリはそんな余計なものを覚えていられるほど非効率的な作りはしていない」
「素直に忘れたって言えばいいものを――まあいい。その歩美ちゃんなんだが、先週おばあちゃんが亡くなられたらしくてね。相続関係で父さんのところに相談に来たわけだ」
相続関係の相談――主に相続税や名義の変更など、税理士はそのような相談を受けて収入源の一つとしていたりする。もちろん渡瀬税理士事務所もその例に漏れるわけではない。
「しかし、下矢田さんのところとは昔からの付き合いだし、お金を取るのは申し訳ない。だからと言って父さんが無料で相談に乗るのも他のお客さんとの関係に角が立つ」
「だから、現役法学部大学院生の姉さんに白羽の矢が立ったって事だろ? よかったじゃないか。いい経験だ。一人で頑張ってくれ」
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