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話の大筋を理解したところで、渉はデスクに向き直ろうとする。しかし、法子は力ずくでデスクチェアごと引き寄せる。更には、肩を掴み寄せて顔を近付けた。真顔で迫るその様子は有無を言わせるつもりはない……言外にそう言っているようだ。
「父さんが『渉と二人で対応してくれ』って言ったんだよ。嫌だと言うなら一つ勝負をしようじゃないか」
法子はそう言うと無遠慮に渉の部屋に置いてある腰ほどの高さの棚の引き出しを開ける。まるでどこに何が置いてあるのかを熟知しているかのような動きだ。迷いなく引き出しから取り出されたのは一組のトランプ。長年使い続けられていることが分かる程に傷が入ったプラスチックケースに、これまたプラスチック製のトランプが入っている。ケースとは違い、目立った傷が無いトランプは丁寧に扱われている証拠だろう。
「ブラックジャック一発勝負。嫌とは言わせないよ?」
渡瀬家ではたびたびこうしてゲームで物事を決める事がある。法子が提案するのは決まって運が勝負を左右するゲーム。主にトランプゲームだった。今回選ばれたゲームはブラックジャック――引いたカードの合計値が二十一に近かった方が勝利と言うもの。ジャックからキングのカードを十とカウントしエースは一か十一の好きな方を選べる。もちろん、二十一を超えると問答無用で負け確定だ。
「これは父さんからの仕事依頼な訳だから私がディーラーでいいね?」
「……ああ」
ディーラー側はプレイヤーがカードを引き終わってから自分が引くかどうかを決められる。つまり、プレイヤーよりも強い手になるまで引き続けられるという事。逆にバスト――プレイヤーが二十一を超えた場合はその瞬間にディーラーの勝ち。二人でプレイする場合、特に掛け金無しの一発勝負でディーラー制は圧倒的にプレーヤーに不利な条件だ。
「シャッフルは渉、配るのは私だ」
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