違いの分かり兼ねぬ男

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 寒い寒い。もう春も近いってのに夜はまだまだ冷え込むな。   おっ、丁度いいところに。缶コーヒーでも買っていくか。  仕事からの帰宅途中、寒さに負けた俺は自販機の前で立ち止まり、“あったか~い”の文字に並ぶ色とりどりのコーヒー達を眺めた。  微糖に無糖に加糖に低糖。オリジナルブレンド、エスプレッソ、備長炭珈琲、ブルマン、モカ、キリマンジャロ、アメリカン、ハワイアン、ヨーロピアン、ブラジリアンなどなど。このメーカーのコーヒーは種類が豊富でどれも美味いからいつも迷うんだよな。どれにしようか。  そうだ。目を閉じたままボタンを押し、出てきたやつを見ないで飲んで銘柄を当ててやろう。利き酒ならぬ利き缶コーヒーと言ったところか。別に正解したところで賞品は無いが、ちょっとした優越感には浸れる。まあ30年間缶コーヒーを飲み続けてきた俺なら当てられて当然だろう。  俺は金を入れ、“あったか~い”のコーナーがある位置を覚えたまま、ギュッと目を閉じ人差し指をゆっくり自販機に近付けた。 ピッ ガコン!  上手く押せたようだ。だが飲むまでは目を開けられない。  俺は手探りで取り出し口からホカホカの缶をつかみ取り、プルタブに指をかけた。  カコッと缶に穴が空く感覚が手に伝わる。口を近付け啜るようにズズッと一口。冷え切った体に温かい液体が染み渡る。  この濃厚な甘さ……。舌に残るマイルドな味わい。  これは、カフェオレ……いや、カフェラテ?  うん。カフェラテだ。カフェラテで間違いない。  確信を得た俺はそろりと目を開けた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加