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ここは山奥のカメムシの村―――
この村のニシキキンカメムシの長者様には何人か御子がおるんじゃが、そのうちの何番めじゃったか……雄の三つ子がおったんじゃ。
そのうちの一人に錦之丞ってのがおったが、何が災いしたのか、今じゃ昔の面影がのうなってしもうた。まあ、おなごの尻ばかり追うておる我が儘な阿呆息子じゃったから、何人かの見てくれに騙されとるおなご以外は、大人しゅうなって喜んでおった。
今日はその三つ子の一人、錦夜(キンヤ)の話をしようかね。
兄弟達は親父に似て、下半身が奔放でだらしない奴ばかりじゃったが、錦夜は家から出ることがあまり好きではなく、ただ毎日絵を描いておったんじゃ。
兄弟一小柄でどこか儚げな、ニシキキンカメムシ独特の美しい姿をしており、兄弟達から大切にされておった。
そんな錦夜がある日、珍しく山へと写生に出掛けた。
しかし日頃の運動不足がたたったのか、眩しい青空を見上げた途端、急に目眩を起こし、ふらふらと側の木に寄り掛かったんじゃ。
「今日は…暑いなあ……」
木にもたれ額の汗を拭い、体を休めるように風を感じておった。
しばらくして気分が落ち着いた頃、どこからか苦しそうな声が聞こえてくることに気付いた。
声のする方に目をやると、すぐ近くの茂みの中にマルカメムシの茶々丸とナナホシキンカメムシの七星の夫婦がいたんじゃ。
「あっ……」
山仕事の休憩中らしい二人を見て、思わず声が出そうになった錦夜は口を押さえた。
(あれは……春画で見たまぐわい?)
はっきり見えないが、二人は着物を着たまま深く繋がっているようで、七星が茶々丸の上で艶かしく、大きく左右に開いた両足を出したまま体をくねらせている。
(ツ…ツガイになったら、あんな風にまぐわい(交尾)をするんだ……)
下から突き上げられるたび、七星は甘く鼻にかかった声を上げ、夫婦ともども幸せそうな目でお互いを見つめ合う。
そんな二人を見ていると、錦夜はばくばくと鼓動が速くなっていき、その場に居づらくなってきてのう。
(七星さんすごい……あんなに長くて太い茶々丸さんを、食べちゃってるみたいだった)
逃げるように速足で去る錦夜の頭には、そんな考えがよぎっていた。
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