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喫茶店で、気ままなティーブレイク。窓から差し込む春の緩やかな光に、いつもの俺ならば上機嫌なはずだった。
だが、今日の俺は違った。ただ一点を見据え、あることを我慢していた。
「W.C」と書かれた扉──。
そう、紛れも無くトイレである。
突如として、菊の門に違和感を覚え、トイレに立ったのはいいが、同じくトイレに入ろうとしていた女がいたので、笑顔で譲ってやった。レディーファーストというやつである。
俺はまた席に戻り、女が出るのを待った。しかし、女は一向に出る気配を感じさせない。
その間に、便意という名の陣痛は激しさを増し、ウンコという名の赤子が「おぎゃー」と生まれそうな勢いだったが、こんな時こそ真の男というのは、クールでなくてはならない。
脂汗を垂らしながらトイレを見つめていたのでは、
「あの人、ウンコを我慢してるのかしら」
なんて思われかねないし、歩く時に、内股でモンローウォークなんか決めた日には、
「やっぱりウンコだったのね」
と、冷たい目で見送られるはめになる。
ウンコだということを悟られてはならない。
俺は忘れない。小学校の時、学校でウンコをしたことがばれて、あだ名がウンコマンになった武史くんのことを。
俺は言えなかった。
「君はウンコマンじゃなくて武史くんだよ」と。
最低だ!
人間のウンコだ!
もとい、クズだ!
そう考えてる間に、さっきのウンコウーマンが、やっとトイレから出てきた。俺は、颯爽と立ち上がり、軽く会釈をして鼻歌まじりにトイレへと入った。どんな物を出したのか知らないが、ウンコの残り香が微かに残っている。
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