いっぱくひゃくえん

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「朝、目覚めたら、隣で知らない女が寝ていた」  なんてドラマみたいなこと、ありえないと思っていた。  夕べは、記憶がなくなるまで飲んだわけでもない。というか僕は昨日、出掛けてすらいない。  久々の休みで一日中家に引きこもり、ため録りしていたビデオを観たり、ゲームをしたりして過ごしただけだし、人と接触はおろか電話ですら話していないのだ。  なのに、朝目覚めたら、僕の隣には、知らない女がすやすやと寝息をたてている。この女は、なぜここで寝ているのだろうか。  僕は、出掛ける以外に部屋の鍵を掛けない。家にいるのだから、空き巣に入られることもないからだ。  僕が女ならば、夜ばいに入られる可能性を考え、戸締まりをするのだろうが、僕は男なのでその可能性もない。  仮に、どこぞやの同性愛者に見初められ、襲われる可能性も否めなくはないが、そんなことは考えもしなかったので、戸締まりはしていなかった。  この女が、どういう意図を持って、隣で寝ているかまではわからないが、僕が寝ている間に、勝手に鍵の開いていたドアから入ってきたということは間違いないだろう。  僕は女の顔を眺めてみた。見たところ、歳は十代後半くらいだろうか。僕よりも一回りは若いようだ。  脱色により傷んだ髪が、寝癖によりボサボサ感を増していた。まつげに、これでもかというくらい盛ったマスカラと、太めに引いたアイラインが涙で滲み、まるでパンダのようだった。  女を見ていれば、何か思い出すかと思ったが、見れば見るほど謎は深まるばかり。やはり、僕はこの女を知らない。  もしかして、どっきりかと思ったが、そんなことを仕掛けるような友達はいない。  すべての謎は、この女が目覚めなければ、わからないということか。
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