0人が本棚に入れています
本棚に追加
ずいぶん勝手な言い草だと思った。連絡を取らずに会わない女が、十年も待っているわけがない。
と当時は思ったが、なぜか私は十年目の彼が渡米した日に、この橋の上にいる。
自分でも馬鹿な女だと思う。十年も経てば、結婚してるだろうし、若気の至りで言った言葉など、とっくに忘れているだろう。
私は何を待っているのだろうか。
「帰ろう」
と思ったその時、一人の男性が歩いて来てるのに気付いた。
頭は禿げ散らかしていて太っていたが、その目を見た瞬間に、私の心臓の鼓動は高鳴った。
彼だ。間違いない。だが私は、彼から目を逸らしてしまった。なぜなら、彼があまりにも変わり果ててしまっていたからだ。
あのスタイル抜群で、イケメンな彼の姿は、どこへ行ったのだろう。
どうしようかと真剣に悩んだ。てっきり、あの日のままの彼が来ることを想像していたのに。
そりゃ、私も多少は老けたけど、彼の変貌ぶりは度を超えていた。
でも、考えた結果、私は彼を受け入れることにした。十年経ってしまったけど、彼は約束した通り、この場所に来てくれたのだ。
私は顔を上げ、満面の笑みを浮かべ、彼の方を見た。でも、彼は軽く会釈して、そのまま通り過ぎてしまった。
私は、今も素直になれない女でいる。
最初のコメントを投稿しよう!