ガラシとアジサイ

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梅雨の晴れ間。澄んだ風が吹く昼休み。 五階の音楽室を覗いてみると、吹奏楽部が練習をしていた。二十人くらいの生徒たちが、それぞれの楽器を手に楽譜とにらめっこしている。 ウチの高校の吹奏楽部は、全国大会にたびたび出場する強豪部。そこまで登りつめるには、昼食時間も惜しんで、ケータイをもてあそぶヒマさえ投げうって、練習に励まなければならないんだろう。 でもね、やらされてる感は全然なくて。むしろ、みんな楽しんでいるみたい。ほら、笑顔があふれてる。演奏が好きですきで仕方がないってふうに。 窓側には、トロンボーンとかいう大きな楽器を構える女生徒がいた。一年生かな。まだ慣れていないようで、真っ赤に頬をぷうっと膨らませている。大変そうね、練習頑張って。 この中に中学時代からの友人、未来子がいるはずなんだけど、パッと見で確認はできなかった。 この前のゴールデンウィークに吹奏楽部は市代表として、姉妹都市のソウルへ演奏旅行に出かけていた。 焼き肉が美味しかった、キムチが美味しかった、明洞の街でいっぱい買い物してきた、と未来子からたくさんの話を聞かされたわ。 何よりも、吹奏楽部の気の置けない仲間で海外旅行できたのが、最高に楽しかったんだって。うらやましい。ああ、私も一緒に吹奏楽部に入ればよかったかな。
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