第1章

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.それでは、私は。 「朝八時から十時、それと昼の三時は地中三十センチメートルより上には出てはいけないよ?」 これが父の毎日の口癖だ。  自分の身の危険ぐらい、三年も生きていればそろそろ察知できるようになる。スコップが刺さってくる時というのは何とも言えない空気感が土に帯びるのも知っている。 それでも父は、農家の人間の行いは一定しているから気を付けなさいと口を酸っぱくしていつも三回は言うのだった。 ミミズの一生は非常に短い。短いと半年、長くても十年だ。私の種は八年ほどだった。あと五年しかない。父も生まれて六年と半年だというから、そろそろ寿命が危ういのかもしれない。 「わかってるわよ、お父さん。心配し過ぎ。私、今日はミィちゃんと微生物食べ放題に行ってくるから」 「それは時間は大丈夫なのか、危なくないのか」 「うるっさいなあ……心配しすぎ!大丈夫だってば!」 父の言葉を聞き流して、私は自身から抽出させている絶え間ない粘膜を使い、土の中を移動し始めた。  いつぞやか、私がまだ幼かった頃、ミミズ大量殺りく事件が起きった。何でも、トヨトミさん家というところの畑で起こったらしい。何でもトヨトミさんは脱サラというサラ行為をし、新しくその土地の土という土が掘り起こされた為だ。 父はモグラからその話を聞いて粘膜を身体の穴と言う穴から抽出させ、震え上がった。 「この世の何処にも安全な土地なんて存在しないんだ。ミツミ、気をつけなさい」 この事件から、私たちミミズは超音波を用い、土を震わせ、ミミズ界の共通門限時間を設定した。それが朝の八時から十時、そして昼の三時の時間帯である。  この時間が人間が田を耕し起こすため、土は隆起するため、私たちミミズが土と共にスコップでかき回される恐れがあるためである。 「全く……お父さんは相変わらず。もう子供じゃないのに」 私は、自分で言うのもばつが悪いが、いつも門限の時間ギリギリの帰宅だった。家に帰るのが嫌なのではなく、時間の制限があること、いつも一つの土地に返って来ざるを得ないことが面倒だった。  ミィとの食事ツアーを終えた帰り道、私は焦っていた。朝八時の門限が近い。土の温度は急激に冷め始め、僅かながら身体が動きづらい。
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