10人が本棚に入れています
本棚に追加
酸素を求めて荒い呼吸をする音と久しぶりの運動で悲鳴を上げる心臓の音が打ち消しあうように熱い耳の奥で響く。
周りは美しい桜並木だというのに酸素が足りなくて狭まった視野では殆ど目に入らない。きゅうっと締め付けるように頭が痛む。それでも、自転車を漕ぐ足を止めなかった。
行きがこんな坂道なんだから、帰りはきっと爽快だなんて事をのんきに考えているから、全く余裕がないわけでもないのだとこれまたよく分からないことを考える思考のループ。
不意に途切れた桜並木に、目的地についたことを教えられて顔を上げると、目の前には巨大なパラボラアンテナ。
何に使われているのかは知らない。宇宙ステーションに電波を送っているのだとか、宇宙人からの電波を受け取るためだとか、近隣諸国の電波を傍受するためだとか、はたまた他国の電波を妨害するための電波をだしているのだとか、いろいろ言われているけれど、本当の所は何なのか私は知らない。
だけど、ここからなら少しでも強く届くかもしれない。そう思うから、彼にメールを送る時はいつもここに来る。
振り返って、今通り抜けてきた桜並木と遠くに見える街並みをカシャリと一枚写真に収めて、メールに添付して、巨大なパラボラアンテナにむけてメールを送信した。
メールのアイコンが旅立つのを見届けると、今度は颯爽と、ノンブレーキで桜の舞う長い坂道を自転車で駆け抜けた。
*
*
*
*
最初のコメントを投稿しよう!