ごふくを貴方に

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JRの駅まで歩いていると、どこからか祭り囃子の練習する音色が聞こえてきた。 もう秋祭りの季節なんだ、とふと気がつく。 そして、夏祭りでの失敗を思い出して思わず苦笑いを浮かべた。 「あ~、天音さんは天神祭り行ったんや」 「そうなんです。 もう人人人で、すごく大変でした」 「せやろうな~」 「だろうな」 苦笑いでそう告げれば、三ヶ栄さんはくすくすと笑った。 斎藤先輩も苦笑いを浮かべていた。 大阪夏の風物詩でもある、天神祭りの花火大会は毎年たくさん人が訪れる。 その人の多さを少し舐めてかかっていた私は、会場付近ですでに圧倒された。 環状線桜ノ宮駅のホームでは、既に身動きが取れない状態。 天満駅で降りて、歩いて下さいと案内があったほどだ。 そして当日は交通規制がかかるらしく、どこまでも一方通行。 横切ることや引き返すことは勿論、止まることもできない。 ただひたすら歩く。 そして、ビルとビルの間から見えたのは、小さな豆電球のような花火だった。
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