ごふくを貴方に

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「あれ、そういえば天音さん。 僕の絎台(くけだい)知らへん?」 きょろきょろとあたりを見回しながら三ヶ栄さんはそう言った。 絎台とは、裁縫で用布を絎けるとき、用布がたるまないよう一方を張ることに用いる道具のこと。 全体は2本の木製部品を組み合わせたL字型をしている。 台座となる底辺部分は板状で、その一端から棒状の柱が垂直に伸びるつくりになっており、柱の頂部は針刺しが載せられるよう皿状になっている。 「僕、何処やったっけ」と首を傾げるそんな姿に、私と斎藤先輩は目を合わせてそしてぷっと吹き出して笑った。 「横にありますよ、店長代理の左側」 斎藤先輩に少しあきれた声でそう言われて、「あ」と苦笑いを浮かべた。 「邪魔やったから退かしたの忘れてたわ。 いつもある場所に無いのって、困るな」 「貴方がそこに置いたんですよ」 「・・・うん、せやねんけど」 ぽふぽふと針刺しの部分を軽く叩いた三ヶ栄さんは、肩を竦めた。
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