ごふくを貴方に

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三ヶ月栄さんは、漆塗りの施された重厚感のある絎台を使っている。 少し前に、お祖母ちゃんに贈る着物を作った時、三ヶ栄さんの絎台を借りていたが、細かい小さな傷はあったものの、とても大切にしている事がよくわかった。 「実はこの絎台、この店の創立当初からずっとここにおるヤツやねんて。 代々受け継いで、この絎台を使ってお客さんに「ごふく」を届けてんねやで」 「わあ・・・とても素敵ですね」 いつも疑問に思っていたんだ。 三ヶ栄さんが作った着物と他のものを比べると、何処か何かが違う気がしていた。 勿論、技術の高さや素材の良さもあるけれど、他のものとは何かが違う雰囲気を持っていて、それが何なのか分からずに疑問に思っていた。 きっとその答えは、匠の思いが託された、代々受け継がれてきたこの道具を使っていたからだ。 「あっ。 天音さんが今持ってるその二つの反物、僕にちょうだい」 「あ、はい。 素敵な和柄ですよね」 そう言いながらそれらを手渡す。 三ヶ栄さんは、頬を緩めてその反物を広げた。
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