2392人が本棚に入れています
本棚に追加
飛行機が関空に到着してすぐに連れてこられたのが、やくふごの店。
一息つく間のなく素っ裸にされて、着物を着せられた。
オトンは、当時猫背気味だった僕の背中を遠慮なしに叩いた。
『ええか、よう聞き。
これは着物言うて、日本人が昔から着てる服や。
腹にまいてるのは帯って言うてな、背筋ぴーんてなるやろ。
着物きとったら、帯があるから背中丸めて下向かれへん。
下向かへんかったら、胸が苦しならへん。
だから、どんなに辛いことがあっても苦しくならんねや』
当時は日本語なんて意味不明で、その言葉の意味を知ったのはもう少し後のことだった。
ただ毎日のように背中を遠慮なしに叩かれて、「セスジピーンヤ!」と繰り返され続け、
セスジピーンヤ!が背筋を伸ばすことにすぐに直結した。
日本に来てから一番に覚えたのは、「背筋ぴーん」なのかもしれない。
「帯してるから、背筋が自然とぴんてなるやろ?だから着物を着とったら、背中を丸めて下向かれへん。下向かへんかったら、胸が苦しならへん。やからどんなに辛いことがあっても苦しくならんねん」
オトンがくれた、魔法の言葉。
「背筋ぴーん、や」
その子は目を丸くして、「背筋ぴーん」とつぶやく。
そして、ぷっと吹き出した。
最初のコメントを投稿しよう!