番外編・袖振り合うも他生の縁

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飛行機が関空に到着してすぐに連れてこられたのが、やくふごの店。 一息つく間のなく素っ裸にされて、着物を着せられた。 オトンは、当時猫背気味だった僕の背中を遠慮なしに叩いた。 『ええか、よう聞き。 これは着物言うて、日本人が昔から着てる服や。 腹にまいてるのは帯って言うてな、背筋ぴーんてなるやろ。 着物きとったら、帯があるから背中丸めて下向かれへん。 下向かへんかったら、胸が苦しならへん。 だから、どんなに辛いことがあっても苦しくならんねや』 当時は日本語なんて意味不明で、その言葉の意味を知ったのはもう少し後のことだった。 ただ毎日のように背中を遠慮なしに叩かれて、「セスジピーンヤ!」と繰り返され続け、 セスジピーンヤ!が背筋を伸ばすことにすぐに直結した。 日本に来てから一番に覚えたのは、「背筋ぴーん」なのかもしれない。 「帯してるから、背筋が自然とぴんてなるやろ?だから着物を着とったら、背中を丸めて下向かれへん。下向かへんかったら、胸が苦しならへん。やからどんなに辛いことがあっても苦しくならんねん」 オトンがくれた、魔法の言葉。 「背筋ぴーん、や」 その子は目を丸くして、「背筋ぴーん」とつぶやく。 そして、ぷっと吹き出した。
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