Episode 3 『新緑のサスペンス』

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「だから、離婚した時、『仕事を辞めたあなたはどうせ、稼げないんだから、慰謝料も養育費もいらない』って言ったのか」 と小松さんが呆然と洩らす。 「そうよ、だけどいくらいらないっていっても、あなたは養育費を送ってくる。受け取れないと思いつつ、だけどあなたの子かもしれないって思って、使わずによけてあったの。 いつかDNA鑑定をしてあなたの子だと分かった時、優子の結婚資金に充てさせてもらおう。もし國代の子なら、お返ししないとと思ってた」 陽子さんは涙目でそう告げる。 「……おそらく、國代先生は陽子さんに一服盛って関係を持ち、『薬師如来図』を完成させたことで、気持ちにピリオドを打ったわけですね。 これはもう、犯罪行為以外の何ものでもありませんが、その言及は今は置いておきましょう。 そんな國代先生は雑誌で優子さんを見て驚いたと同時に、陽子さんが離婚している事実も知り、自分の子に違いないと信じた。 生き神としても娘としても、なんとしても手元に置きたいと、宏郎さんを使って、呼び出してもらい、薬師如来図を見せた上で、自分と陽子さんには関係があり、君は自分の子に違いないと、まぁ、そうしたことを言ったのではないでしょうか」 「それじゃあ、原口宏郎と優子は付き合ってなかったということか?」 「優子さんが、宏郎さんに想いを寄せていたのは本当でしょうが、交際はしていなかったのでしょう。クラスメイトには自分の妄想を伝えていたのではないでしょうか。 また、優子さんにケリーバッグを贈ったのは、宏郎さんではなく國代先生でしょうね」 ホームズさんの容赦のない言葉に、優子さんは苦虫を噛み潰したような顔で目を伏せる。
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