Episode4 『その心は』

3/82
前へ
/548ページ
次へ
「でも、ゴールデンウィーク期間、お客さんの出入りはありましたけど、見ていくだけで買っていかれない方の方が多かったですよね?」 それでもホームズさんは、構わないんだろうか? そんな気持ちを込めて尋ねると、彼は「そうですね」と相槌をうつ。 「ふらりと訪れたお客様が、何万、何十万もする骨董品を買っていってくれることなんて、そもそも期待していないんですよ」 「そうだったんですか?」 「ええ。それよりも、ここに来て、骨董品を見て触れて、古美術に興味を持ってくれたり、好きになってほしいという気持ちの方が大きいんです。 ですから、お客様がたくさん来てくれると、たとえ買わなくても嬉しいんですよ」 「それで、ホームズさんは、ここでコーヒーをお出ししているわけですね」 私は納得して、うんうん、と頷く。 お店に来て、商品を買わなくても構わない。 店にあるものを見て、好きになってくれたら、それはいつか古美術界の未来にもつながるわけだ。 素晴らしいな、と思っていると、 「そうして、いつかうちの太客になっていただけたら」 胸に手を当てて微笑むホームズさんに、私は言葉を詰まらせる。 うん、相変わらず、『安定のホームズさん』だ。
/548ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17326人が本棚に入れています
本棚に追加