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「利休、どうかしましたか?」
ホームズさんが顔を覗くと、利休くんは大きく息をついた。
「清兄、この前さ、父さんに呼ばれてるから、東京行きに付き合って、って、僕、お願いしたよね?」
利休くんの父親、つまり好江さんの元夫である左京さんは、現在東京に住んでいる。
小松さんの事件を解決させるのに、利休くんに捜査を手伝ってもらった際、そのご褒美として、東京に同行することを提示していた。
「ええ、覚えていますよ」
ホームズさんは、微笑んで頷く。
「それね、もう必要なくなったから」
利休くんは力なくそう言って、また息をついた。
「……左京さんに何かあったのですか?」
「うん、もうあの人、東京にいないんだよ」
へっ? と、私の口から間抜けな声が出た。
左京さんは、たしかあまり儲かっていない個人投資家だったはず。
もしかして、一文無しになって行方不明になってしまったのだろうか?
少し失礼な想像だけど、どこかふわふわしている彼のことだから、ありえない話でもない。
勝手にハラハラしていると、『カラン』と再びドアベルが鳴り、
「やあ、『蔵』の皆さん、久しぶりだね!」
そこには、スーツ姿で薄茶色の髪は顎にお洒落鬚、彫りが深めで、少し垂れ目。
少しイタリアっぽい雰囲気の、まるで映画俳優のように、男前な中年男性が満面の笑みを浮かべている。
噂をすれば。
利休くんの父親・左京さんが店に入ってきた。
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