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「うちの父さん、京都に住みはじめたんだ」
利休くんは遠くを見るような目でそう告げる。
「左京さん、いらっしゃいませ、お久しぶりです。どうぞお掛けください」
と、ホームズさんは、左京さんに席を勧める。
「ありがとう、清貴くん。ああ、葵ちゃんも久しぶり。なんだか、ちょっと見ない間に、とても綺麗になったね」
と、左京さんは腰を下ろしながら、相変わらずな調子で言う。
「左京さんは、いつから京都に?」
ホームズさんは給湯室に入りながら、そう尋ねた。
おそらくコーヒーの準備をしてくれるのだろう。
その問いに、利休くんが口を開く。
「本当に最近だよ。ほら、和彦叔父さんがさ、ちょっぴり『暁』と関わっていたらしくて、取り調べを受けたんだ。結局、美術品関連の付き合いがあった程度で、やましいことはなかったみたいなんだけど」
利休くんの話に、私はホッとして胸に手を当てる。
そう、近代美術作家が『暁』という大麻愛好会を作り、怪しげな教団にまで発展し、それが露見したのは最近のこと。
利休くんの叔父である和彦さんも、仲間だったらどうしようと思ったのだけど、どうやらそうではなかったようだ。
「ま、和彦叔父さんは、ビビりだから、そういう意味では心配してなかったんだけどね。
でも、じいさんはかなりショックだったらしくて、和彦さんを勘当しちゃったわけ」
「和彦も可哀相だよね、友達が悪かっただけなのにさぁ」
左京さんはそう言って、肩を上下させる。
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