◇ 第二章:魔王の護衛官 ◇

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 姐御は、陽気でノリが良くて、そう、娘の嬢ちゃんとは正反対の性格だった。別嬪さんも、冷徹残酷な魔王としてのイメージをまさか信じているわけではあるまい。あれは国教会が自分たちを正当化するため広げたものだ。  とにかく、姐御は陽気で美人で頭が良かった。氷結晶の作り手という事もあったが、本当に凄い人気だったし、その人気にちゃんと応えもした。カリスマだったんだ。  オレはグループでも若い方だったが最古参で、しかもケンカが強かった。馬鹿みたいに強かった。頭は悪かったがな。  姐御にのぼせ上がってバカをやる連中も少なくはなかったから、北の地に居た頃から、オレはその護衛役を買って出ていた。結構、重宝されていたんだぜ。おかげで、周りの崇拝者たちからも羨まれる立場に居た。なんせ、常に姐御の側に付き従っているんだからな。  しかし、娘の嬢ちゃんは可哀想だった。  下の大地に降りたのは多くが姐御に惹かれて寄ってきた若い連中だ。若いっても、嬢ちゃんのような子供ではなかったし、とにかく嬢ちゃんには同じ年くらいの友人がぜんぜん居なかった。  しかもその後、オレを含めた若いのが大きなバカをやらかして、下の大地の人間たちと戦争状態になった。  皆が刺々しくなっていく中で、戦火に怯えながら幼少期を過ごす事になったんだ。嬢ちゃんの、引っ込み思案で無口で一人を好むあの性格は、姐御とは正反対だ。  しかし、それも仕方のないことだろうと、オレは思う。
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