◇ 第二章:魔王の護衛官 ◇

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 いや、そうじゃなければ姐御が可哀想な気がしてな。  娘に恨まれても仕方がないと言っていたが、その時の泣きそうな姐御の顔を思い出すと、やっぱり嬢ちゃんには母親のことを想ってやってほしいんだ。  まぁオレは嬢ちゃんよりも、やっぱり姐御の方を近く感じるから、そういう考えになってしまうんだがな。 「そう言えば……」  と、ゲーエルーは話題を少し変えた。湿っぽくなったのを嫌ったのかもしれない。 「別嬪さんは、どんな理由でここで働くことになったんだ?」 「キキでございます。……そうですね、自分は最果ての森に住んでいるのですが、近くの街にブレイブハートというバーがございまして、そこのマスターの口利きで紹介していただきました」 「最果ての森とは、また遠い。近くの街ってのは、カニエーツかい?」 「その通りでございます」 「カニエーツのブレイブハートか……」  キキさんの答えを聞いて、ゲーエルーは苦い顔をした。 「ゲーエルーさん? どうしたの?」  不思議そうにクークラが聞く。 「ああ、クークラは知らんかもしれんが、あそこは戦争中期の激戦地でな。今でこそただの辺境だが、それまでは勝ち続けていたオレたち氷の種族が、初めて負け戦を経験した土地で、そこからあの戦争は逆転されていったんだ。それに、ブレイブハートって……」 「? 勇者?」 「そうだ。あの街は勇者の出身地で、初めてヤツが頭角を表した戦いでもあったんだ」
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