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04.
「ゲーエルーさんは、勇者を見たの?」
「見たさ。オレもあの戦いには参加していたからな。いや、見たなんてもんじゃない。剣を交えた」
「ホントですか?」
クークラはもちろん、これにはキキさんも驚いた。カニエーツの戦いは、国教会も重要視する歴史の一ページである。そこに参戦していたとは。
戦史書で語られるゲーエルーは、魔王が討たれる寸前の数行のみである。
「勇者って、ハクのお母さんを殺した人でしょ? どんなだったの?」
クークラの無邪気な、その割に言葉を選ばない問いかけに、ゲーエルーは答えた。
「国教会の神品(聖職者)どもは紅顔の美少年として言い伝えているが、あれも嘘だ。確かに年端の行かない少年だったが、その割には毛深くて筋肉質でオッサン臭い……なんというか、熊みたいな感じのヤツだった」
「強かったの?」
何気ないクークラの質問を受け、ゲーエルーは身震いする。
「ゲーエルーさん?」
「……強かった。あれは……強かったとしか言いようが無い。カニエーツと、終戦間際のこの砦で、ヤツとは二度、剣を撃ち合わせたが、オレの首が今でもくっついているのは、オレが強かったからじゃない。運が良かったからだ」
どう考えても勇者を憎んでいるだろうに、その点は素直に認めるのか……と、キキさんは思った。勇者とは、やはり半端ではないモノを持っていたのだろう。
「カニエーツで生き残った後も、オレはずっと姐御の護衛をした。最後には追いつめられて、他のグループの生き残った奴らと合流してここにあった砦を改修し、立て籠もった」
ゲーエルーは、少しトーンを下げて、続けた。
「それも負けて、仲間たちは殆どが殺された。勇者が、砦に潜入して姐御を討った。それが全てだ。オレは……守りきれなかった」
キキさんとクークラは無言で聞いていた。
「姐御を討たれたら、オレたちはもうまとまることが出来なかった。それでも、やっぱりオレは運だけは良かったんだな。なんとか包囲を切り払って脱出し、北の地に逃げ帰ろうとした。だが、大人たちは下の大地に降りた若いのを受け入れなかった。災厄を北の地にまで及ぼすのを許さなかった」
「……だから、今でも逃亡を続けているんですね」
「ここを落ち延びたのは少数だが、皆、あれからずっと下の大地を逃げまわっている。国教会から指名手配されているし、専門の追手が放たれているから、なかなか気が抜けん」
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