◇ 第二章:魔王の護衛官 ◇

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 だがな、と、湿っぽくなった空気を再び振り払うように、ゲーエルーは笑った。 「国教会、あれは弱体化してきたな。下の大地の人間たちは、オレたちに比べて遥かに寿命が短い。あの戦争当時の記憶を持つ者ももうほとんど生存していない。オレを追い回すヤツらも、代替わりする度に質が落ちていく。それに……」 「それに?」 「嬢ちゃんが創っている氷結晶。その管理はすべて国教会がやっているが、あれは単に王族や貴族に売りさばいているだけだ。税金と喜捨以外でも金をかき集めていやがる。奴らの金集めはそれだけでは無いが、一事が万事と言うやつだ。金と欲に塗れれば、組織なんて腐敗して自壊していく」  なるほど。  しかしそれは、ハクにとっては悪いことではないのかもしれないと、キキさんは思った。  氷結晶の需要が増えれば、それだけハクの発言力は上がるはずだ。  しかし。  国教会が、もし弱体化を続けたら。  果たして、給料の支払いはどうなるだろう? 賃金は、ハクからではなく国教会からの払いになっているのだが。  ゲーエルーは、一泊だけして去っていった。  追われている身である。  長居はできない。  まして砦跡に出入りしていると国教会に知られれば、累はハクにまで及ぶかもしれない、と言って、彼は早朝、まだ昏い時間に出立していった。  ゲーエルーと入れ替わるように、ハクが工房から出てきた。疲労困憊してフラフラの状態だった。  キキさんが、ゲーエルー氏が来ていたと告げると、ハクは笑って言った。  あのおじさん、悪い人ではないのだけれど、捕まったら話が長い。  それに。  人の名前を呼んでくれない。いつまでたっても嬢ちゃんって言う。  キキさんは、苦笑いしながらそれに同意した。  ハクを寝かせつけ、看護のための体制を整えてクークラにバトンタッチすると、これでやっとキキさんも帰るだけになった。  主義に反して、二日間の残業をしてしまった。  超勤手当は出るのかしら、と、キキさんは思った。  金の問題もあるが、それ以上に性格として、そういう所はしっかりさせておきたいというキキさんだった。
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