◇ 第一章:家政婦の弟子 ◇

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01.  キキさんがアルバイトを始めてからしばらくが経った。  雪が降り、積り、世界を白く染め上げ、やがて溶け始め、今は日に日に暖かくなる日差しの攻勢に対して、残雪が抵抗を続けている。  昨日には、その雪を押しのけて蕾をつける雪割草の健気な姿も見つけることができた。  砦跡にキキさんが来てから、そんな季節の移り変わりが繰り広げられていた。  キキさんの主な仕事場となる砦跡の参謀本部の中では、しかしそんな気候の変化にはあまり影響されず、常に変わらない日々が続いていた。  なにせ、砲撃にすら耐える頑強な二重壁を持つ参謀本部は、その強さと引き換えに窓という物を付けることができず、外界の変化に目をつむったままなのだ。  戦争が終わり、任務を終えた参謀本部は、永劫の時を静かに眠っているに等しい。  しかし、中に住まう者達はそうもしていられない。  生きている以上、快適に過ごしたいという欲求は当然あるもので、その上この砦跡の整備は、砦跡の主人であるハクにとって国教会から課せられた義務なのである。  二人で住まうには広すぎるこの住居の中は、常に人が動いて片付けていなければ、すぐに湿気がたまりカビが生え、埃が積もって廃墟同然になってしまうのだ。  実際、キキさんが仕事をし始めた時、砦跡の内部は、あまりいい状態とはいえなかった。
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