◇ 閑話休題 その3 クークラに関して ◇

4/4
前へ
/45ページ
次へ
 しかし、その術式は禁呪と呼ばれる類のものでもあった。  魔導士たちは、多くの子供たちの魂を身体から引き離し、加工して使用していた。  戦勝という大義名分のため倫理は軽んじられ、勝つためならば何をしても許されるという風潮の中、子供たちの犠牲も、それを知る立場の人間の多くが、尊く気高い犠牲として祀り上げ、肯定していた。  魔導士たちはその技術を誇り、人間たちの旗頭として前線に立っていた勇者に、苦労して創り上げた「試作兵器」を紹介する。  魔導士たちに罪の意識はなく、純粋に兵器運用上のアドバイスを求めようとしたのだが、計画の全容を知った勇者は激怒。  研究機関と施術場に乗り込んで、全ての研究結果と施設を破壊した。  もしもこの技術が完成し、量産化された暁には、どれ程の魂が「加工」された事であろう。勇者の行為は蛮行との非難も受けたが、彼は意に介さなかった。  勇者は当時の勇者後援会、後に国教会と呼ばれる事になる組織に、全ての資料の廃絶を命じ、魔導生物計画の存在そのものを歴史の闇へと消し去った。  唯一の完成品だったクークラは、水晶の原石に宿らせたまま眠らせ、勇者が自ら保護していた。  彼がハクにクークラを託したのは、ハクの精神を心配しただけの理由ではない。  クークラの能力は、もしも悪意を持って成長すれば、それこそ魔王と呼ばれる存在になってもおかしくないほどのポテンシャルを秘めている。  ならば、国教会がある限り無為の存在として祀られる、優しい性格のハクのもとで、彼女を支えながら無為の日々の中に生きていくことこそ、クークラ自身、そしてその周囲の者達にとっての幸せになるであろうという判断だった。   自らの生い立ちを、クークラが知る機会は未来永劫、訪れない。  ただ、魔術アニメートを習得する過程において、自分が付喪神やアニメートによって動く物品と同質のものであると直感し、自分に比べれば原始的であるそれらの存在への愛おしさを、クークラは深めていく事になる。  その愛おしさは、アニメートを習得する事への根源的な欲求であり、遠い遠い遥か未来において「意志を持つアニメート」という形で子孫を残す事になる魔導生物クークラの、無意識の内にある種族的な本能の渇望でもあった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加