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休みを返上して職場に行くのは、キキさんの仕事の美学に外れる。でもそうすれば、恐らくこのモヤモヤは晴れるだろう。
「だったら、ウダウダしていないで、やることを決めるべきよね」
オフの素の口調でひとりごち、明日、出勤することに決めた。
超勤は、もうサービス残業と割り切ろう。
そうとなれば、明日の用意だ。
キキさんは機織りをやめ、仕事の準備に取り掛かった。
床を掃除するための、アニメートで動かす専用の丸い木板とそれに取りつけるモップを幾つか。自分が使うための箒やはたきなどの掃除用具。何かと使うことの多い小さなナイフ。自分用のヒカリムシのランタン。それらを用意して、詰められるものはカバンに詰めて。
それから。
キキさんは、館の中の書庫に向かった。
そこには、マスターや仲間たちと共に集めた膨大な書籍が保管されている。
クークラと約束した、魔術に関する書籍を探す。とにかくアニメートに興味があったようなので、それに関連する事柄が書かれた本を、時間をかけて選別していった。
付喪神に関する研究論文。「大気に満ちる魂」に関しての基礎的研究書の選集。キキさんが手ずから書いたアニメートに関するメモや覚書の寄せ集め。死者と魂と生物と無生物の関係を記した書籍。戦時中にアニメートを使い「下の大地」の軍勢を苦しめた氷の種族の術師「ヴァーディマ」について書かれた本。
どれも簡単な書ではないが、そもそも初心者向けの魔術書など存在しない。クークラがこれらを読み、理解するまでにどれだけの期間がかかるかは分からないけれど、努力するにも指針が必要だ。これらの書は、きっとクークラを導いてくれるだろう。
初めてアニメートを使いこなした時のこと。マスターが褒めて、頭を撫でてくれたこと。魔法の本質を理解せず失敗した時のこと。キキさんはそんな思い出を頭に浮かべながら、深夜に至るまで本の検索と選別を進めていった。
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