◇ 第三章:大気に満ちる魂 ◇

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03.  ハクは今度こそベッドに上体を起こし、クークラは部屋の隅の机からイスを引っ張りだしてベッドサイドに置いて座る。  キキさんは、小さなテーブルセットに腰を下ろして、二人に向き合った。  頭の中で話すことをまとめる。  大気には、魂が満ちています。  と、キキさんは話し始めた。  生き物が死ぬと、その小さな魂は身体を離れ、大気をたゆたいます。一人の小さな魂は、大気に満ちる大きな魂に、練りこまれるように同化していきます。  特に、記憶や性格といったような自我は、死んだ瞬間に取り込まれて行くようです。  もっと単純な、怒りや恨みといった強い感情はまた別ですが……。  そのように様々な魂を同化させた、その大きな魂は個々の自我を持ちません。  そうですね、例えて言うならば混ざった絵の具のようなものです。赤も青も、本来は自分たちの色を持っていた物が、全て混ざって個々の色を失ってしまった絵の具のような。  大きな魂には、ムラがあります。濃淡もあります。  大きな魂の密度が濃厚な地帯もあれば、薄い土地もあるし、小さな魂も均一に交じり合うわけではありません。  それはともかく。大気には、そのような大いなる魂が満ちているのです。  この大気に満ちる大きな魂は、ただ小さな魂を吸収するばかりではありません。  時に……いえ、世界中全てを俯瞰することが出来れば頻繁に。大気に満ちる魂はその一部を物質に分け与えています。あるいは、物質が魂を引き寄せています。  それが、年経た器物に宿れば、それは付喪神となります。  あるいは、「北の地」の風雪と混じり合えば……。 「氷の種族になる?」 「そうです。ハク様たちの一族は、そのようにして形を成したものです。わたくしも……」
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