◇ 第四章:聖務 ◇

2/8
前へ
/45ページ
次へ
◇ 第四章:聖務 ◇ 01.  晩餐の場で、ハクはホストの、スヴェシはゲストの席に座り、キキさんは給仕として控えた。  スヴェシは四〇そこそこの人間の男性で、地域における宗教的トップである「主教」と呼ばれる地位にある。この若さでその座にあるのはかなり異例なことで、それだけでスヴェシの優秀さは推し量られる。  スヴェシの担当する主教区はレビリンリェス地区と言い、ちょうどこの砦跡がある「迷いの森」を包括している。  レビリンリェスの主教は代々「魔王の娘」ハクを祀り鎮めることを任の一つとしてきた。  ハクと向い合って座るスヴェシを、キキさんは見るともなしに観察している。  やや浅黒い肌で、精悍で険しい顔つきをしており、髪は丁寧に撫で付けられて一点の隙もない。黒くゆったりとした僧服は飾り気が無く質素。しかしよく手入れがされていて清潔感がある。部屋に入った時にキキさんが預かった修道帽も、素朴だが年季の入ったものだった。  テーブルマナーも完璧で、ただ左手がやや不自由なのか、しばしばフォークを握り損なうことがあった。  静かな食事だった。  スヴェシは無駄なことはあまりしゃべらなかったし、ハクはハクで緊張のため話すどころではない。キキさんも口をきく立場になかった。  そんな空気の中で、スヴェシは予定を話した。  砦跡に一泊した後、まずは「一の聖務」である「砦改め」をし、昼食の後に「ニの聖務」である「奉神礼と説教」を行う。その後、晩餐をしてから「氷結晶拝領」を受け、その夜のうちに帰途につく。 「奉神礼と説教」と聞いた時、ハクが見ていてわかるほどに気落ちした表情を見せた。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加