◇ 第一章:家政婦の弟子 ◇

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02.  クークラは好奇心が旺盛である。  何にでも取り憑けるという特殊な体質を持つクークラは、乗り移っているボディによって振る舞いや性格、そして能力を変化させるが、しかしその好奇心の強さだけは、どんな状態であっても変わらなかった。  お気に入りの少女の人形を身体にしているクークラは、今、その好奇心を発揮させて、キキさんの魔法で動いている掃除用具達を観察している。  よく動く。  キキさんの指示はなくとも、ハタキは壁や棚の埃を落とし、箒と塵取りは一体となってゴミを掃き取る。  そして円形の木板を袋状に編んだ毛糸で包んだ、キキさん手製の特殊なモップが、仕上げとばかりに床を拭き取っていくのである。  無生物が勝手に動いている。  その光景が、クークラにはとても面白く、愛おしいものとして映り、目が離せない。  例えば、進行方向に椅子などの障害物があると、円形のモップはその前で少し迷ったようにウロウロする。  クークラがその障害を取り除くと、まるで喜ぶかのように勢いをつけてその場所を掃除し、そこが終わると礼でも言うかのようにクークラに近づき、つま先に軽くぶつかって方向転換し、またぜんぜん別の所を掃除し始めたりする。  キキさんは、これらの動く掃除道具たちは、知性ではなく、単純な判断によって動いているだけで、そこに意思があるように感じてしまうのは、自分たちになぞらえて物を見ているだけの話である、と言っていた。それは多分そうなのだろうが、しかしクークラはやはり掃除用具達に意思があるように感じてしまうのである。  ただし、確かに「知性」はないのであろう。盲目的に動いているように見える。  もし知性があれば、おそらくは端から順に塗りつぶしていくように動くはずだ。それが一番効率が良いのだから。  しかし円形のモップは、二度拭き三度拭きになるのも理解せずに、あたり構わず動いている感じなのだ。
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