◇ 第一章:家政婦の弟子 ◇

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04. 「え?」 「好奇心を持ち、疑問に思ったことを調べるため、自分でやり方を考えて、こうしてモップの動きを可視化されて。わたくしも、このような方法でモップの軌跡を表現できるとは考えたことがありませんでした」 「え……えへへ?」 「だからと言って、仕事の邪魔をしていい訳ではありません。手が止まってますよ」 「す……すみません」 「場合によりけりですが、わたくしとしては、クークラさんの好奇心と実証精神は悪いものだとは思っておりません。イタズラ心も、多少は仕方がないでしょう。これらは分かちがたいものですから。今回のことに関しても、安易に答えを聞きに来るよりも良かったのかもしれませんね。自分でモップの動きを確かめたことで、より理解を深めたでしょう?」 「今、身に染みてます」  絡んだ糸を解しながら、クークラは答えた。 「クークラさんの、その性格は、優れた魔術師の素質でもあります」  唐突に、思いもよらない言葉をかけられて、クークラは思わずキキさんを見た。 「ホント!?」 「魔術は、実のところ“なぜそうなるのか”を知らなくても、“やり方”さえ知っていれば使えてしまうという面がございます。魔術は……ちょっと違うかもしれませんが、道具のようなものでもあります」  キキさんは、少し考えて言った。 「例えば、料理を作る技術は無い人でも、包丁を使うことはできます」 「……でもそれだと、使えるってだけで、意味が無い?」  クークラの応えを受けて、キキさんは微笑んだ。 「それどころか、本来の用途を知らず、振り回して人を傷つけるために使うかもしれません。もっともそういう輩は大体、他人を傷付けた挙句に自らの身を滅ぼしますが」  そしてキキさんは、かつて自分が魔術に失敗した時に、マスターに諭された喩え話を例に挙げた。 「このような話があります。ある魔術師の弟子が、水汲みをさせられていた時に、師の魔術を見よう見まねで使用して、箒にバケツを持たせて作業を代わらせ本を読んでいました。しかし術の本質を理解していないその弟子は、瓶に水が貯まりきっても箒を止めることが出来ず、魔術師の家を水浸しにしてしまったという話です」 「うん……?」 「魔術師の資質の一つに、魔術の本質を理解する能力が挙げられます。ただ答えだけを安易に求めるのではなく、疑問を持ち、その原理原則の理解を求める精神は魔術師にとって掛け替えのないものです」
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