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キキさんは、今度はクークラの手が止まっていることを注意しなかった。
「魔術に対する興味もあるように見受けられました」
「うん! ある、凄くある! キキさん、教えてくれるの!?」
「しばらく、ここで働かせていただいて、なんとか馴染むことも出来ましたし、すぐに辞めさせられる事もなさそうです。以前、少し話させていただいたのですが、ハク様もクークラさんの勉強になるのであれば、と、理解を示してくださいました」
クークラは喜びが言葉にならないようで、キラキラとした目でキキさんを見た。
「空いた時間に限られますし、そもそもわたくしは魔術を本職とするものではありません」
「うん、でも!」
「それにすぐに何かが出来るようになる訳でもありません」
「それでもいいよ。キキさん、すぐには無理でも、ボクもいつかはモップを動かせるようになる?」
「アニメートも、あれはあれでかなり高度な術ですからね。クークラさんの頑張り次第と言ったところでしょう」
「頑張る、ボク、頑張るよ!」
「では、今度来る時に、魔術について書かれた本を何冊か持ってきましょう。まずはそこからです」
キキさんの言葉にクークラが頷いたのと同時に、ゴーン! と鉄を叩く音が階下から響いた。
一階の正面入口のドアを、誰かがノックした音だった。鉄のドアと、それに取り付けられた金属製のノッカーは、重く響く音を砦跡の隅々まで反響させる。
「来客?」
キキさんがここに来て初めて聞くノックの音だった。
「クークラさん、ここには予定のないお客様が訪れることもあるのですか?」
「ああ、あるよ、一人だけだけど。多分、ゲーエルーさんだと思う。ハクはまだまだ工房から出てこれないだろうから、ボク、ちょっと行ってくるよ」
絡まっていた糸をポイと捨てて、クークラは駆け出していった。
「あ、ちょっと……」
キキさんは、糸が散らばり放題になっている部屋を見て、表情を変えずにため息をつく。
そして、残された糸玉を手に取ると、一言二言それに囁いた。
その声に応えるように、糸がするすると糸玉に戻っていき、絡まっていた部分もほぐれ、あっという間にキキさんの手の中に収まった。
「ここの掃除が終われば館に帰られたのですが、お客様とあってはそうもいきませんね」
開けられていたヒカリムシ灯台にカバーを被せ、キキさんはクークラの後を追って部屋を出て行った。
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