6月・さわんな!

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雨が降る。 現在進行中だから、雨が降っている。 憂鬱になる。 天気に関係なく憂鬱なのだから、憂鬱になっているが正しい。 「今朝の芽衣さんキレイだったなぁ……1泊してくるんだっけ?」 目の前で公平がプリントに向かいながら話しかけてくる。 弁財天高等学校──通称・弁天高、俺達が通う学校内の1―2の教室で、授業で出された課題をやっている最中だ。 「あぁ」と短く返し、解く気もない問題に目を向ける。 次の授業開始まで7分ほどある。 ここで済ませておけば次々と出される課題を持ち帰って[面倒臭い]と嘆かなくて済む。 「珍しいよなー、芽衣さんが外泊」 易々と解答欄に記入していく公平を羨ましく思いながら、会話にイラつく。 俺の憂鬱の原因は季節が梅雨であって、今週3日続けて雨が降っている事ではない。 洗濯をしても乾かないとか、家の中が湿気でじめついてウザいとか、どーでもいいのだ。 「何処に行ったんだっけ?」 公平はプリントを仕上げて顔をあげた。 そして不機嫌な俺を見てため息を吐いた。 「絵の参考資料集めに県外へ、出版社の担当者(・・・)と、ドライブだって喜んでたけど、何か?」 「いや、たった1泊だろ、何でそんなに不機嫌なんだよ。1日でも離れてんのが淋しいってか?お前、頭大丈夫か?」 益々イライラした。 普通は親が留守だと思春期の子供は大喜びするものだろう。 俺だってたまには母の世話をしなくて済む日があると嬉しい。 毎日ご飯作って洗濯して掃除して……主夫を休めれれば楽だ。 だがしかーし! 俺がイラついている理由は[母の外泊]ではない。 「はぁ……」大きくため息を吐いた。 1週間ほど前、母から取材旅行の話しをされた。 絵の為に取材に出ることなど珍しい。 「今回はちょっと特別でね、自然を題材にしてみよーって話しなの」 引きこもりの母にしては本当珍しく[ウキウキ]で今朝なんか「じゃ、勉学に励んでおいで!明日の夕方に帰ってくるからね!」などと上機嫌で送り出されたほどだ。 珍しく化粧して、オシャレまでしていた。
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