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雨は止みそうになく、下校時刻になっても降り続いていた。
梅雨なんだから、降ってもらわなきゃ困る事もある。
「悪い、留衣!彼女送ってくから。夕飯には間に合う!」
一緒に帰る約束などしていなくても、当然のように共に帰路につく公平から詫びの台詞が飛んできた。
「あれ、何人目の彼女かしら?先週は違う子だったわ」
いかにも[恋人]風に並んで歩く公平達を見て麻琴は呆れた声で言い捨てた。
「1度家に帰ってから」ウチに来ると話しながら途中まで麻琴と並んで下校する。
可笑しな事じゃない。
公平と3人で帰る事が通常だが、公平が彼女と帰る時は麻琴と二人で帰宅する。
公平は自宅前を素通りしてウチに、麻琴の家は俺ん家より先にあるから、麻琴とはウチの前で別れる。
小学生の頃からよく行ってた事だから、今更これが[普通]の事だ。
この日、台詞通り夕飯時に公平は現れ、麻琴はおかずを一品持ってウチに来た。
母の居ない食卓は……案外普通だ。
二人ともいつものように俺の手料理を美味いと褒めつつ手と口を忙しく動かし、片付けを手伝うでもなくソファーで寛ぐ。
「麻琴、送っていこうか?」
「別に、1人で平気だけど」
「ん、そう?でもママさんに煮物の礼、しとこうかと……旨かったし」
時間も8時を回った頃、帰宅する麻琴に声をかけた。
麻琴は少し戸惑った様子で断ってきたが、公平が一緒に帰ると言い出し、任せる事にした。
二人が帰ると家の中は途端に静かになった。
後は風呂に入って寝るだけだ……となるとまた思い出す。
今頃母は何をしているのか……気になる。
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