44人が本棚に入れています
本棚に追加
勿論、母から連絡はない。
俺も連絡などしない───特に何もないからだ。
夜、家の中が静かなのは毎日の事なんだが、今日はやけに雨音が耳につく。
担当者の名前、何て言ったかな……確か『キノサキ』……母の『先輩』にあたる人だと交代した時に母が話していた。
考えるのを止めようとすると余計に頭の中を巡る。
翌日は想像通り寝不足となった。
「顔色悪くない?大丈夫なの、留衣」
登校中に麻琴に心配をされた。
「ただの寝不足……へーきだよ」
「どうせ芽衣さんの事でも考えてたんだろ、俺も考えてたけどな。早く帰ってこないかなぁ……朝会わないと調子出ねぇよ」
麻琴が呆れたように息を吐く音が聞こえ、俺は公平の軽さにドン引いた。
『彼女』はどうした?!
教室に入ると各自の席に向かったが、席に着いてから一瞬、隣で麻琴が動きを止めた気がした。
「どうかしたか?」
「別に、何も」
一応声をかけたが本人がそう言ったので気のせいだったのかと深く考えなかった……俺の頭の中は夕方帰宅する母の事で埋まりつつあったのだ。
とりあえず一緒に帰宅するであろう『キノサキ』の顔を拝んでやろう。
迎えにきたのだから、送ってくるはずだ。
家にはあげないぞ……あげたくないから。
……なんだこれ、なんだか不愉快だ。
今日は雨は降っていない。
だけど俺は今日も憂鬱としていた。
昼休みになると公平が彼女と外で食べるからと誘いにきた。
「留衣を紹介しろってウルサイんだ、付き合えよ」
「いや、彼女と食うのに邪魔だろ、俺」
「いいから、飯構えてくれてるから!」
昼は母がいれば適当に昼飯を用意するついでに弁当箱に詰めて持ってくるのだが、今日はそれがない。
だから助かるといえば、助かる。
笑顔の公平について、渋々席を立つ。
最初のコメントを投稿しよう!