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「じゃ、親御さんに連絡してくるから、お前達はそのままここにいろ。病院に連れてくからな」
担任が少し緊張した面持ちで命令を下して出て行った。
俺達は保健室のベッドに並んで座っている。
野次馬を掻き分けてきた教師は「大丈夫か?!」「立てるか?!」と声をかけ、歩ける事を確認してから野次馬を散らしながら俺達を保健室に連行した。
麻琴が倒れてくる事に気がついて俺は受け止めようとし、公平はそんな俺を支えようとした。
足元に段差がなければ踏み止まれたが、足を踏み外し〈落ちる!〉と思った時、公平を下敷きにしないように思わず腕で押して突き放した。
公平は左側半身をしこたま打ち付け、俺は背中を強打し、麻琴は足を挫いたようだ。
人とはなんと重いものか……麻琴が重いわけではない……たぶん、そんなに重くはないと思う。
本人にはとても言えないが、重くはないはずだ。
「なんで言わないんだ?」
「……何を?」
保健室に3人だけとなると、公平が麻琴を咎めるように声を発した。
「突き飛ばされたんだろ、何で言わないんだよ」
強めな口調に麻琴は苦々しい顔をして下を向いた。
麻琴は「何があった」と聞いてきた教師に、「自分がつい、足を踏み外した」とだけ答えたのだ。
俺と公平は震える小声で『押された』と言う言葉を確かに聞いた。
ガタガタと震えていた麻琴は、今は少し落ち着いたようで、もう目に見えるほど震えてはいない。
「だって……本当かどうか、わかんないし……ただの事故かもだし」
「ただの事故であんなに前のめりになんかなんないだろ!」
公平が声を荒げる───驚いた。
怒るというより、イラついている。
普段言い合いはするが、本気で麻琴に怒鳴るところは初めてじゃないだろうか。
「俺達がいなかったらお前大怪我してたんだぞ!……俺達だってこんな……いっ……!」
勢いよく立ち上がった公平は左肩を押さえてうずくまった。
「公平!落ち着け」
俺はなだめる事しか出来ない。
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