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俺は思いっきり嫌な顔をしてみせたが、全くの無視をきめられた。
「ほら、留衣は着替えて寝る!麻琴ちゃんはお母さんが来るまでソファーに座ってて。本当は寝かせてあげたいけど、私のベッドじゃ嫌だろうし、ロフトに上がれないし、ね」
[母のベッド]に微かに悦びを表した麻琴だが、直ぐに残念な表情を浮かべ、大人しく母に支えられながらリビングのソファーに向かった。
それはそれで嬉しそうに頬を赤らめていたが……麻琴に気を向けているわけにはいかない。
「へぇ……芽衣にしては綺麗にしてるな」
と俺の後ろから城崎が明るい声を発した。
なんで上がってくるんだ?
帰れよ、用事は済んだだろ?!
そう思って睨みつけるも、〈クスリ〉とまたもほくそ笑まれた。
それから数日、ヤツは毎日来た。
母と仕事の事で打ち合わせがあるという面目をたててやって来るのだ。
俺の為に家を出られないと母が外出しないからだそうだが、俺にはそれだけじゃないように思えて気に入らない。
城崎恭一。
母より2つ年上で高校時代の先輩だとか。
親類の経営する出版社に勤め、こき遣われているとボヤいていた。
母のことを『芽衣』と呼び捨てにする……ただの担当編集者が、だ。
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