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公平の憂鬱は暫く続いた。
それでも放課後に[彼女]と帰宅すると言い、先に教室を出て行った。
「今の彼女さん、1つ上の[小松美希]さんっていうの。中学で同じ委員会だったのよね……いい人なのに、何で公平なんかと付き合ってるんだろ」
帰路の途中、麻琴がボヤいた。
「美術部員で、芽衣さんの事『憧れ』てるって誉めてくれてたのよ!」
「へぇ……」
正直、俺にはどうでもいい話しで、気の無い返事しか出来ない。
母の仕事について、母の描く世界を見て、小さい頃の俺は喜んでいた。
今でも凄いなとは思っている。
慕ってくれる人がいるのはめちゃめちゃ嬉しい。
だが今はそれどころではない。
母の仕事をサポートしているのが城崎恭一だと知ってしまった以上、あいつが何なのか、気になって仕方がない。
前の担当編集者とは明らかに違った[親しげ]な雰囲気に苛立ってしょうがないのだ。
前の人は呼び捨てたりしなかった。
たからといって母に『あいつは何なんだ?』などと聞いても『担当編集者だけど?』としか返ってこないから聞くだけ無駄だ。
むしろ、『アイツなんて言っちゃダメ!』と怒られたくらいだ。
大人は都合のいい事だけ話す。
あいつに聞いたとしてあの[上から目線]な笑みを見せてくるのかと思うと聞くのも嫌だ。
返ってくる言葉に不安もある……。
考えながら歩いていたから、ふと傍らを過ぎる情景に俺は本気でビックリした。
頭の中の人物が現実に後ろからやって来たのだ。
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