7月・芽衣の優雅な1日

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公平の憂鬱は暫く続いた。 それでも放課後に[彼女]と帰宅すると言い、先に教室を出て行った。 「今の彼女さん、1つ上の[小松(こまつ)美希(みき)]さんっていうの。中学で同じ委員会だったのよね……いい人なのに、何で公平なんかと付き合ってるんだろ」 帰路の途中、麻琴がボヤいた。 「美術部員で、芽衣さんの事『憧れ』てるって誉めてくれてたのよ!」 「へぇ……」 正直、俺にはどうでもいい話しで、気の無い返事しか出来ない。 母の仕事について、母の描く世界を見て、小さい頃の俺は喜んでいた。 今でも凄いなとは思っている。 慕ってくれる人がいるのはめちゃめちゃ嬉しい。 だが今はそれどころではない。 母の仕事をサポートしているのが城崎恭一だと知ってしまった以上、あいつが何なのか、気になって仕方がない。 前の担当編集者とは明らかに違った[親しげ]な雰囲気に苛立ってしょうがないのだ。 前の人は呼び捨てたりしなかった。 たからといって母に『あいつは何なんだ?』などと聞いても『担当編集者だけど?』としか返ってこないから聞くだけ無駄だ。 むしろ、『アイツなんて言っちゃダメ!』と怒られたくらいだ。 大人は都合のいい事だけ話す。 あいつに聞いたとしてあの[上から目線]な笑みを見せてくるのかと思うと聞くのも嫌だ。 返ってくる言葉に不安もある……。 考えながら歩いていたから、ふと傍らを過ぎる情景に俺は本気でビックリした。 頭の中の人物が現実に後ろからやって来たのだ。
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