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母は城崎の見送りもせずにモゴモゴと口を働かせ、好物のオムライスを食べ続けていた。
「麻琴ちゃん、金曜日はウチに来ちゃダメだよ。わかった?」
突如そう言われてカウンターテーブルで食べる母の隣に陣取っている麻琴は少なからずショックを受けたようで「へっ?!何で?!」と悲しげに問い返した。
「らって、金曜日は……」
金曜日……俺は目の前で後片付けをするべく、シンクに向かいながら二人の会話を聞いていたが
「「誕生日」」
と思わず母と台詞がかぶった。
「たんじょーび?」
「そ、留衣の」
俺の、誕生日。
「今年は金曜日。この日だけは留衣は何もしないでワガママを言って良い日なんだから、朝から甘やかすの。まだ私の子供でいさせてちょうだいな」
母が[ご馳走さま]と両手を合わせながらヘラッと笑うと、麻琴は[ああ、そうか]とでも口に出すように口を開けて頷き返した。
そう、毎年俺の誕生日は母と二人だけで過ごす。
その日だけは一切の家事をさせてはもらえず、母は仕事もせずに俺のしたい事、やりたい事を優先させて動いてくれる。
夏休み中だということもあってか、遊園地、動物園、水族館……映画にコンサート、キャンプに旅行……その都度俺が興味を持っている事や、楽しめる事柄をチョイスしてきて母は1日俺に付き合う。
「別に、もう16だし無理しなくても……」
この年になると母親と過ごすってのもなんだか恥ずかしくなってくる。
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