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城崎は笑う事を止めた。
大きく息を吐き、タバコをくわえて、吐き出す。
僅かだろうけど、静かになった。
「ふん……契約出版社の担当編集者っつっても、納得しない?」
柔らかな声で問いかけてくる。
俺達は無言で応えた。
すると城崎はまたもクスリと漏らして「元恋人だよ。芽衣とは高校の時付き合ってた」と諦めたようにさらりと言ってのけた。
俺の心臓が跳ねた。
「別れてから仕事で再会するまでは互いに連絡は取ってなかったよ。進学先も違ったし、忙しくしてたしな……満足?」
仕方なく、といった感じで城崎はため息混じりの煙を吐いた。
何故だろう……なんだか、哀し気な目をしている気がして、その目は俺を見ている。
コイツ……まさか、な?
「あんた、今でも」
「どうかなぁ」
公平の問いに重なるように発した言葉に再び心臓が跳ねた。
「うーん……確かに芽衣はいい女になってるけど、あれだよなぁ……うーん……ま、昔と変わらず可愛いとは思う。作家として尊敬も出来るし、好感は持ってるよ」
飾らず言葉を連ねる。
城崎はやっぱり[大人]だ。
だけどその笑顔が[作り物]にしか見えないのは何故だろう?
「もういいか?留衣君、そろそろ取り掛からないと作業員が来ちまうよ?」
終わりだ、と壁を張られたように、城崎との対話は強制終了させられた。
その顔にはもう[哀しみ]は見えなかった。
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